妊娠・出産に「高額医療費制度」は利用できる?

人生の大きなライフイベントである妊娠・出産。待望の赤ちゃんをお腹に宿した妊婦さんにとって、出産して赤ちゃんに会う事は何よりも楽しみのことと思います。
しかし、そんな幸せいっぱいのマタニティライフでも、お金の事について不安に思っている方、少なくないのではないでしょうか。事実、妊娠・出産にはまとまったお金がかかります。
では、そんな妊娠・出産に高額医療制度は使えるのでしょうか?利用できる他の公的制度も含め、お話していこうと思います。
妊娠・出産にかかる費用は?
予想以上の出費となる妊娠・出産。では、実際にどのくらいかかるのでしょうか。
◎妊婦健診費用
妊娠をしたら、定期的に病院に足を運び、妊婦健診を受けなければなりません。厚生労働省は、標準的な妊婦健診の回数は14回としています。一般的なスケジュールとしては、
◇妊娠初期~23週(1~4回目)
→4週間に1回
◇24週~35週(5~10回目)
→2週間に1回
◇35週以降(11~14回目)
→1週間に1回
となっています。
毎回行われる一般健診(問診、基本計測、保健指導)のみで1回約5,000円がかかるので、14回分の合計ですと約7万円かかる事になります。しかし実際は一般健診だけではなく、血液検査や超音波検査、更に子宮頸がん検診などが行われる為、総額を考えると妊娠期間のみでも10~15万円程度かかると思っておいたほうが良さそうです。
◎出産費用
出産費用の平均額は、一般的に平均約50万円かかると言われていますが、実は地域によって大きく異なる場合があります。
出産費用の高い都道府県は、東京都・神奈川県・栃木県などが上がってきますが、その逆で低い都道府県は、鳥取県・熊本県・沖縄県などがあげられます。
◇出産費用の高い都道府県
1位: 東京都-平均約620,000円
2位: 神奈川県-平均約560,000円
3位: 栃木県-平均約540,000円
◇出産費用の低い都道府県
1位: 鳥取県-平均約400,000円
2位: 熊本県-平均約420,000円
3位: 沖縄県-平均約420,000円(熊本県よりも若干高い)
さて、このように日本の妊娠から出産までにかかる費用を見ると、幅はあるものの合計50万~80万と大きなお金がかかる事がわかりますね。しかし、正常な妊娠・出産の場合は病気やケガではないので保険適用にならず、全て自費ということになります。
しかし、少子化と騒がれているこの時代、もちろん全て自己負担というわけではなく、いくつかの費用サポート制度があります。
次からは、妊娠から出産までに役立つ公的制度についてお話していきます。
高額医療費制度は利用できる?
高額医療費制度とは、病気やケガをして窓口の支払が高額になった際に、ひと月の実質自己負担額を自己負担限度額までにとどめる事ができるという制度です。
(自己負担限度額に関する詳細は、コラム「役立つ高額医療費制度、気になる自己負担金額は?」に記載がありますので是非参考にしてみてくださいね。)
さて、今回の題材にもあがっているこの「高額医療費制度」。こちらお金のかかる妊娠・出産にも利用する事ができるのでしょうか?
結論から言いますと、利用できる場合とできない場合があります。
どういう事かと言うと、保険適用にならない正常な妊娠・出産だった場合は対象外となり利用ができません。
◎対象となる場合とは?
いわゆる、治療範囲とみなされる「切迫早産・切迫流産」や「異常分娩」となった場合はこの制度の対象となります。その際、治療や手術に対しては窓口支払が3割となり、その3割の額がひと月で自己負担限度額を超える場合は、超過分の払い戻しを受ける事ができます。
対象例として、以下のようなものが挙げられます。
・妊娠高血圧症候群
・重度の悪阻(つわり)や貧血
・切迫早産や切迫流産
・帝王切開
・吸引分娩
・鉗子分娩
・陣痛促進剤など
お気づきの方もいるかもしれませんが、保険適用になるものに関しては高額医療費制度が利用でき、正常妊娠・分娩や食事代、ベッド代などの保険適用外のものに関してはこの制度が利用できないという事です。
他に利用できる公的制度とは?
自己負担が軽減される事を知らずに損をした…!とならないように、その他の公的制度も理解しておきましょう。
◎妊婦健康診査の受診票
妊娠と診断された時点で、なるべく早く住まいの保険福祉センターなどに行きましょう。そこで母子健康手帳とともに、妊婦健診を公費の補助で受けられる補助券を受け取る事ができます。その補助券を使用すれば、定期健診を無料、または一部の支払いのみで済みますので、必ず利用しましょう。
◎出産育児一時金
健康保険の加入者またはその被扶養者が、出産をした際に1児につき42万円が受け取れる制度です。正常分娩、異常分娩問わず、妊娠4ヶ月(85日)以上で出産した際に支払われます。
◎医療費控除
一世帯で支払った医療費等の実質負担額が、1年間(1~12月)で10万円を超えた際に、控除が受けられる制度です。こちらは保険対象外となる正常分娩の費用も控除対象となります。
妊娠・出産に関わる医療費控除の対象・対象外は以下の通りです。
◇対象となるもの:
・妊婦検診費
・通院時に使用した電車・バス等の運賃
・分娩・入院費
・診察や治療費
・出産時のタクシー代(公共機関利用が困難な場合)
・入院時の病院からの食事代
◇対象外のもの:
・自家用車を利用してのガソリン代や駐車料金、有料道路料金
・自己都合による差額ベッド代
・入院の際の自費購入備品
・医療機関への謝礼
・里帰り出産時の帰省費等
◎出産手当金
健康保険に加入している方が対象となりますが、出産の為に会社を休み、給料がもらえなかった場合や、もらえても出産手当金より低い場合にも受け取れます。
◇受給対象期間:
出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)~出産の翌日以後56日のうち、会社を休んだ期間が対象です。
※出産予定日が遅れた場合はその分の支給もあり。
◇1日あたりの手当金額:
計算方法は、「標準報酬月額÷30日×2/3」となります。
まとめ
1回でも時間とお金を要する出産。正常妊娠・分娩の場合は保険的適用対象外とはなりますが、それでも公的制度をフル活用する事によりある程度費用を抑える事ができます。子供が産まれた後もお金がかかりますので、妊娠・出産時に損をしないよう、しっかりと各制度を理解し請求漏れがないようにすることが大切です。