がんという病気について知っておきたいこと

現在、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかの「がん」にかかるといわれています。がんは、すべての人にとって身近な病気です。がんとは具体的にどんな病気なのか、どのように予防すればいいのか、どのように治療するのかなど詳しく知らないという人も多いでしょう。
がんは、適切な治療を受ければ治せる病気になりつつありますので、もしもの場合に備えて、がんに関する正しい知識を学んでおきましょう。
この記事では、がんの基礎知識や仕組み、主な種類、治療方法についてわかりやすく解説していきたいと思います。
がんとはどんな病気なのか?
がんとは、心疾患、脳血管疾患とならび、日本人の死因の上位を占める三大疾病のひとつです。
いつ・どの部位にがんが発生するかは人によって異なりますが、男性は大腸・前立腺・胃・肺・肝および肝内胆管の5部位の罹患率が高く、特に大腸がんは50代から罹患率が上昇する傾向にあります。
一方、女性は乳房・大腸・子宮・肺・胃の5部位の罹患率が高く、特に乳がんは20代後半から罹患リスクが高まるところが特徴的です。
がんで死亡する確率は、男性は26.7%、女性は17.8%と、罹患率に比べると低い傾向にありますが、がんの治療には長い時間がかかるため、早期発見・早期治療が重要とされています。
|正常細胞ががん細胞になる仕組み
正常な細胞は、遺伝子が傷つくことで時間をかけて段階的にがん細胞になっていきます。傷がつく遺伝子は2種類あります。
①細胞の増殖を推進する働きをもつ遺伝子。傷つくことで働き(増殖し)続けてしまう。
②細胞の増殖を停止させる働きの遺伝子。傷つくことで増殖が止まらなくなる。傷のつき方についても、DNAの暗号に異常が起こる突然変異と、DNAの暗号の使われ方が変わってしまうものがある。
正常細胞の遺伝子に傷がつくと増殖が起こり、そこに2つ目の異常が起こるとさらに増殖が加速します。こうした異常の繰り返しによって生命を脅かすがんが生じると考えられています。
がんを防ぐ方法はあるのか
がんは生活習慣と密接な関係があり、喫煙や過度な飲酒、乱れた食生活、運動不足などの要因が重なると、がんに罹患する確率が高くなる傾向にあります。
そのため、日々の生活で禁煙や節酒、食生活の改善、適度な運動などを心がければ、がんの罹患リスクを低減することは可能です。
ただし、100%防げる病気ではないため、たとえ規則正しい生活を送っていたとしても、がんになる確率をゼロにすることはできません。
もちろん、生活習慣の見直しや改善は必要ですが、「自分は大丈夫」と過信せず、いざという時の備えを確保しておくことも大切です。
がんの種類
がんは、がん細胞が集まってできる「固形がん」と造血組織の異常による「血液がん」の2つに分けられます。さらに固形がんについては、上皮細胞にできる「上皮細胞がん」とそれ以外の「非上皮細胞がん」の2つに分けられています。
▶血液がん
造血組織とは赤血球や白血球、血小板などの血液細胞をつくる体内組織のことで、通常は骨髄のことを意味します。この造血組織の異常によって起こるのが「白血病」や「悪性リンパ腫」などの血液がんです。こうした血液がんは集まって固まりをつくらず、がん細胞が一つひとつ個別で血液中に存在しています。
▶固形がん
【上皮細胞がん】
上皮細胞とは身体の表面をおおう「表皮」、内臓の粘膜をつくっている「上皮」などを総称した細胞の名称です。肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がんなどの5大がんをはじめとして、固形がんのほとんどは上皮細胞に発症します。
上皮細胞がん:肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、肝がんなど
【非上皮細胞がん】
主に内臓の壁の内側にある平滑筋や筋肉などに発症するがんで、肉腫と呼ばれます。よく知られているのは筋肉に発症する「骨肉腫」で、若い世代に発症する率が高いのが特徴です。胃や小腸などの内臓壁の内側に存在する平滑筋細胞においても発症する場合があります。
非上皮細胞がん:骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫など
がんの治療方法
現在行われているがんの治療法には、主に、①手術療法、②放射線療法、③化学療法(抗がん剤)、④免疫療法の4つがあり、これらをがんの四大治療法とよんでいます。 日本では、これまで手術ががん治療の中心にありましたが、近年は化学療法や放射線療法が進歩し、がんの種類やステージ(病期)によっては手術と変わらない効果が認められるようになってきました。
|がんの四大治療法について
①手術療法
外科手術により、がんの病巣を切除する治療法です。また、周辺組織やリンパ節に転移があれば、一緒に切除します。
しかし、手術により、身体にメスを入れるため、創部の治癒や全身の回復にある程度時間がかかる治療法でもあります。
しかし最近では、切除する範囲をできるだけ最小限にとどめる縮小手術や、腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術など、身体への負担を少なくする手術(低侵襲手術)の普及が進んでおり、当院でもこの低侵襲手術を積極的に採用しています。
②放射線療法
放射線をがんに照射して、がん細胞の増殖を防ぎがん細胞を殺してしまう治療です。放射線は、細胞分裂を活発に行う細胞ほど殺傷しやすい性質を持っています。 このため、がん細胞は正常な細胞に比べて放射線の影響を受けやすく、一定の線量を小分けにして何回も照射することで、正常な細胞にはあまり影響を与えず、がん細胞を殺傷することができるのです。
③化学療法(抗がん剤)
化学療法とは、抗ガン剤などの化学物質によってがん細胞の分裂を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。がんは次第に転移し全身に広がっていく全身病です。 抗がん剤は内服や注射により血液中に入り、全身のすみずみまで運ばれ、体内に潜むがん細胞を攻撃します。そのため、全身的ながんの治療に効果を発揮します。
④免疫療法
免疫とは、体の中に侵入した異物を排除するために、私たちが生まれながらに備えている能力です。免疫療法は、私たちの体の免疫を強めることによりがん細胞を排除する治療法で、化学療法同様、全身に効果がおよぶ全身療法のひとつです。 2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑教授が開発したニボルマブ(オプジーボ)という免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる画期的な薬が代表的です。 現在保険診療の範囲は一部のがん種に限られていますが、今後適用範囲の拡大が期待されており、これまで一般的に行われてきた手術療法、放射線療法、化学療法に続く新たな治療法として注目されています。 川崎幸病院でも胃癌、肺癌、食道癌などで免疫チェックポイント阻害剤による治療が行われています。
がんの治療は、この4つの治療を組み合わせ併用する事により、より大きな効果をあげることができます。